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見本 出生仕様書 闇編

それ、故障ではなく、仕様です。

出生仕様書 闇編 あなたが抱えている、心の闇。/題を一枚に刻んだもの

「あなたが誰ともケンカしないのは、平和が好きだからじゃない。心の底で、全員を見下しているからです。」

あなたは、部屋に入って三秒で全部わかる人です。
誰が不機嫌か。誰が輪に入れていないか。誰が今、話を聞いてほしいのか。
わかるから、動く。話を振る。角が立たない言い方に直す。自分の言いたいことは、いちばん後ろに下げる。

まわりはあなたを「気がきく」「大人」「一緒にいて楽」と言います。それは嘘じゃない。あなたは本当にうまい。生まれつき、うまい。

問題は、あなたがその力を、何に使ってきたかです。

合わせているんじゃありません。管理しているんです。

場を整える側にまわった瞬間、あなたはその場の全員より一段高いところに立てる。全体が見えているのは自分だけ。どこまで与えるかを決めるのも自分。そして誰も、こちらには手を出せない。
あなたは人の輪の「中」に入ったことが、たぶん一度もない。いつも輪を見ている側にいる。

だからあなたはケンカをしない。
穏やかだからじゃない。
ケンカというのは、相手と同じ高さまで降りて「私はこれが欲しい」と言うことです。言った瞬間、あなたはただの欲しがっている人になる。そして相手に、断る権利が生まれる。
あなたは人生の全部を、「誰からも断られないで済む」ように組み立ててきた。やり方は簡単です。最初から、頼まない。

そのかわり、あなたは数えています。

あの人が気づかなかったこと。もらうだけもらって返してこなかったこと。あなたが黙って引き受けた分。
何年分も、正確に、覚えている。一度も口に出さずに。

「いいよ、気にしないで」と言いながら、頭の片隅で思っている。
——この人、自分が今なにをしてもらったのか、わかってないな。

それは優しさではありません。
もう勝負が終わったと決めつけた相手に、こっそり点をつけているだけです。
点をつける側は、いつも上です。あなたはずっと、そこにいる。

夜、頭の中で言い返しているでしょう。
完璧な言葉で、完璧な順番で、相手を黙らせる。何十回もやり直して、きれいに勝つ。
そして朝になったら、何も言わない。

言えないんじゃない。言ったら相手が言い返してきて、対等な喧嘩になって、負けるかもしれないからです。
頭の中では、あなたは絶対に負けない。
あなたは「何も変わらないけど絶対に負けない世界」を、「変わるかもしれないけど負けるかもしれない世界」より、ずっと選び続けてきました。

あなたには、口に出す前に全部の文を書き直す癖があります。
相手が傷つかないように、ではありません。自分が減点されないように、です。
あなたはたぶん、生まれてから一度も、検閲を通していない言葉を人に渡したことがない。
それを「思いやり」と呼んできました。

これは、あなたが子どものころに覚えた技です。
あなたの家では、自分が「いい子」かどうかが、その日の誰かの機嫌で決まった。だからあなたは天気を読む子になった。読めば怒られずに済んだ。読めば褒められた。
うまくなりすぎたんです。そして、やめ方を誰にも教わらないまま、大人になった。

あなたの中には、ものすごく行儀の悪い部分があります。
「これが欲しい」「私を見て」「今すぐ寄こして」と、順番も理由もなしに言いたい部分。
あなたはそれを、みっともないものとして地下に埋めた。

だから、それを平気でやる人を見ると腹が立つ。品がない、幼稚だ、わがままだ、と思う。
違います。うらやましいんです。
あの人たちは、欲しがって、断られて、それでも普通に生きている。
あなたは「断られても生きていられる」という証明を、一度も自分に許していない。

そして、いちばん認めたくないところを言います。

あなたは、誰にも選ばれたことがありません。選ばせなかったからです。

相手が好きそうな形に、会う前から自分を削って出ていく。そして、その削った形を「好きだ」と言われて、心の中で冷たくなる。これは私じゃない、と。
当たり前です。あなたが渡したのは、あなたが作った人形です。人形を抱きしめられて勝手に傷ついているのは、あなた一人です。

「誰も本当の自分をわかってくれない」と思ってきたはずです。
本当は逆です。あなたは、わかるための材料を一度も渡していない。
そのうえで、相手がわからないでいることを「やっぱりこの人は浅い」という証拠に使ってきた。

あなたの孤独は、事故で起きたものじゃない。
あなたが毎日、自分の手で手入れをして、維持しているものです。

さらに言います。あなたは、これが気持ちいい。
誰かに雑に扱われて、笑って許した瞬間。損をして、何も言わずに飲み込んだ瞬間。
小さく、甘い感じがするはずです。「私のほうが大人だ」という感じが。
あなたは子どものころから、それを食べて生きてきた。
それが、あなたが自分に許した唯一の自信の味です。人より上にいる、という味。
だから手放せない。手放したら、自分がただの何でもない人になってしまうからです。

あなたが本当に怖いのは、嫌われることじゃありません。
「大勢のうちの一人」になることです。
特別扱いされない。頼られない。いなくても回る。
あなたはそれを、消えるのと同じだと思っている。だから上に立ち続ける。だから誰とも並ばない。だから、いつまでも一人です。

出口は、「もっと素直になろう」みたいな話ではありません。もっと具体的で、もっと屈辱的です。

・欲しいものを、クッションなしで一つ言うこと。「もしよかったら」「別に大丈夫なんだけど」を全部はずして言うこと。
・そして、断られること。断られて、自分が死ななかったのを確認すること。
・助けてもらう側に回ること。うまくできない人として、誰かに手を借りること。
・褒められない場所に、居続けること。自分がその場でいちばん役に立たない人間である場所に、それでも通うこと。

拍手のある場所には、あなたはもう十分いました。
あなたに足りないのは、拍手のない場所で、下手なまま、誰かの隣に座っていられる時間です。
家に帰って、格好をつけなくていい相手と、どうでもいい話をする。そこがあなたの本番です。舞台じゃない。

あなたの、人を読む力も、その場を美しくする力も、本物です。生まれつき強く持っている。誰にも取り上げられません。
ただ今まで、それを全部「壁」に使ってきた。
向きを変えるだけでいい。見られないために使ってきた目を、見られるために使う。

最初の一歩は、今日、たった一人に、一つだけ、飾らずに「これが欲しい」と言うことです。
そして、その人に「無理」と言う権利を、生まれて初めて渡してください。

そこからです。あなたの人生が始まるのは。

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